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3分間マーケティングコラム

ポジショニング・マップとその活用

ブランド・ポジショニングは、ターゲットとする消費者が自社及び競合ブランドをどのように認識しているかを探ることが目的となります。どのブランドと強く競合しているのか、どのポジションに新たなマーケットの可能性があるのかを知ることができます。
 
(1)属性アプローチ
属性アプローチでは、製品やサービスへの満足は製品が持つ属性により生じると考えます。パソコンの場合ならCPU、メモリ、ブランドといった製品属性の束が満足を与えていることになります。それぞれの属性に対する評価基準に照らし、考慮している属性評価の合計が製品の評価となります。製品そのものではなく製品属性を考慮することで、各製品の比較評価が可能となります。


属性アプローチ:古川一郎他(2011)

(2)ポジショニング・マップ作成のためのデータと手法
ポジショニング・マップを作成するためのデータは大きく「定性データ」と「定量データ」に分けられます。定性データはアンケート等により調査を行い、「ブランドの類似度」、「製品属性による評価」、「強制スイッチ」を調べます。定量データはPOSによる「バスケット単位での併買」や、ID-POSによる「期間併買」や「ブランドスイッチ」のデータを利用します。ID-POSを用いるメリットとして、データ入手のしやすさ、分析対象となるブランド数に制約が(あまり)ない、個人が特定できるのでどのような生活背景(購買実態による把握)を持つ人か知ることができる点があげられます。


<データと手法の例>
ブランド類似度:調査対象となるブランドから2つを取り出し、2つのブランドがどの程度似ているかを質問し、ブランド間の類似度行列を作成します。多次元尺度構成法(MDS)等で分析します。
製品属性評価:製品を評価する際に重要な属性について、そのブランドがどの程度当てはまるかを質問し、ブランド×人×評価の三相データを作成します。評価が5段階や7段階の場合は因子分析(注1)等が、01評価の場合はコレスポンデンス分析がよく用いられます。
強制スイッチ:どのブランドが最も好きかを選んでもらい、そのブランドがなかった場合はどのブランドを選ぶかを質問してブランドスイッチ行列を作成します。
バスケット併買:POSデータはバスケットごとにレシート番号が付与されているため、どの商品が同時に購買されたかを知ることができます。その情報をもとに併買行列を作成し、MDS等で分析します。
期間併買:ID-POSでは人の識別ができるため、ある人が期間内にどのブランドを購買しているかを知ることができます。多くの商品では「あるブランド」と「競合するブランド」が同じバスケットに入ることは少ないためブランド間の競合関係を知ることは難しいですが、ID-POSで期間内の併買行列を作成することで競合関係をより明確に知ることができます。分析にはMDS(注2)等が用いられます。
ブランドスイッチ:ID-POSではあるブランドを購買した後にどのブランドを購買したか把握できるので、ブランド間のスイッチをカウントしてスイッチ行列を作成します。分析にはMDS(注2)等が用いられます。
1:本来は三相データとして分析しなければなりませんが、実務的にはブランド×評価のデータを並べて二相データとして因子分析をすることがよく行われます。
2:期間併買やブランドスイッチはデータとして非対称になります。ブランドAからブランドBへの併買やスイッチとブランドBからブランドAへの併買やスイッチは同じではありません。そのようなデータをMDSで分析するためには、非対称MDSを用いる必要があります。
データ分析の結果を下記のようなプロット図で表現することがよく行われます。①プロット図上での距離によってブランド間の競合関係の把握を行う、②製品改善の方向性の検討する、③新商品開発の市場機会の探す、等で利用されます。


鎮痛剤のポジショニング:G.L.アーバン他(1989)を一部改変

(4)商品改善のためのポジショニングと選好回帰
ポジショニングによりブランド間の関係を把握することはできますが、製品を改善するための具体的な方向性を検討するために選好回帰が用いられます。ポジショニングの結果と対象者の選好を用いて回帰分析を行い、消費者の好みがどの方向(もしくはどの座標)にあるかを調べます。下記の図は弊社での分析例をイメージ化したものですが、アイテム単位での分析を行なっています。アイテム単位で分析を行うことで製品属性との関係が把握しやすくなるため、改善案の立案がしやくすくなります。
 ブランドのイメージを把握するためにはアンケートによる分析を、製品改善のために方向性を検討するにはID-POSを使ったアイテム単位の分析というように、目的に応じて手法を使い分けることが有用と考えられます。

参考文献
G.L.アーバン他(1989), 「プロダクトマネジメント」, プレジデント社
朝野煕彦(2010), 「最新マーケティング・サイエンスの基礎」, 講談社
古川一郎他(2011), 「マーケティング・サイエンス入門」, 有斐閣
岩崎学他(2006), 「統計的データ解析入門・線形代数」, 東京図書
中山慶一郎(2009), 「対応分析によるデータ解析」, 関西学院大学社会学部紀要
岡太彬訓他(2010), 「マーケティングのデータ分析」, 朝倉書店
新納浩幸(2007), 「Rで学ぶクラスタ解析」, オーム社
鈴木督久(1998), 知覚マップと選好回帰による市場セグメント
 
<コレンスポンデンス分析による同時布置の問題>
ブランドのポジショニングと製品属性や評価を同時布置する手法として、コレスポンデンス分析がよく用いられます。しかしマーケティング・サイエンスの分野で著名な朝野煕彦先生が指摘するように、コレスポンデンス分析の結果を解釈する際に問題が生じることがあります。下記の例では、「高級な」で最も多く答えられているのは「シャネル」となっていますが、コレスポンデンス分析を実行して2次元にプロットすると「シャネル」よりも「ルイ・ヴィトン」のほうが「高級な」に近くなっています。
このような結果が出る理由として、対象となるブランドの対象空間と、変数となる評価項目の変数空間が異なることが指摘されています。コレスポンデンス分析では対象と変数を集計したデータの次元縮約を行うために「特異値分解」を用いますが、特異値分解によって得られる対象空間の第1次元と変数空間の第1次元、対象空間の第2次元と変数空間の第2次元がそれぞれある相関を持って張られていることが示されています。手軽に利用できるソフトウエアが開発されることで簡単にデータ分析ができるようになりましたが、正しく使うためには理論を知ることも必要となります。


ファッションブランドのイメージ:朝野煕彦(2010)

ID-POSによる売場づくり

 売場づくりには(1)陳列商品の選定、(2)売場の括り、(3)陳列位置の決定が必要となります。ID-POSでは誰が、それぞれの商品を何回、どのような組み合わせで買っているかを知ることができます。この情報をもとに、POSでは把握できない購買者の嗜好を知り売場づくりに役立てることができます。
 
(1)陳列商品の選定
現在売場に並んでいる商品の改廃にはABCL分析(ABC分析+ロイヤルティ)が利用できます。この分析については、前回ご紹介させていただきました。現在売れている商品の把握だけでなく、今後売上が伸びるかもしれない商品の発見が可能となります。これまでは小売業様向けのシステムでご提供させていただいておりましたが、この度メーカー様向けのご提供も開始致しました。棚割り提案を行う際や、自社の製品を売り込む際の参考資料としてご利用いただけます。
ABCL分析
 
新製品のトラッキングにはトライアル・リピート分析(TR分析)が利用できます。TR分析は購買者の広がりであるトライアル購買の人数と、トライアル購買者のうち再度購入をしたリピート購買をした人数により算出します。週次でトラッキングすることで早期に商品力の判断ができます。性年代別に見ることで、どの層に浸透しているかを把握することもできます。
トライアル・リピート分析
 
(2)売場の括り
陳列商品が決まれば、次は棚割りを決める必要があります。売場でどの商品を一つの括りで陳列するかを決定するために、弊社ではID-POSを利用した期間併買にもとづくサブ・カテゴリー分析をご提供しています。アンケートデータによるサブ・カテゴリー分析も行われていますが、アンケートの対象となる商品は売場に陳列されている商品の一部に限られます。ID-POSを利用すれば売場に陳列されている商品全体での括りを決めることが可能となります。
一定期間内にカテゴリー内のどの商品を購買しているかを購買者別に集計し、どの商品同士が買われやすいかを数値化します。集計データはアイテム数×アイテム数のデータ(100アイテムあれば100×100=1万セル)になるため、そのままでは全体を把握することができません。そのため多次元尺度構成法(Multi Dimensional Scaling)による次元の縮約と、クラスター分析によりデンドログラム(樹形図)で表現します。代替性の高い商品が同一グループにまとめられ、背後にどのようなニーズがあるかを読み取っていきます。棚割り決定時での活用以外にも、新規参入カテゴリー、自社商品代替可能性商品、各サブ・カテゴリーのターゲット発見といった商品戦略にも活用ができます。
サブ・カテゴリー分析
 
また、商品属性にもとづくディシジョン・ツリー分析のご提供も行っています。購買の意思決定を行う際には、それぞれの商品が持っている属性を一度に比較するのではなく、優先順位の高い属性から順番に比較を行って購買する商品を絞り込んでいると考えられます。サブ・カテゴリー分析の場合と同様に、アンケートデータにもとづいたディシジョン・ツリー分析も行われます。アンケートでは質問をする際の属性の数が限られるのと、スーパーやドラッグストアで販売されている商品に対しては関与が低いので、自分の意思決定についてよく把握していません。ID-POSを利用すれば属性数に関する制約が少ないのと、購買時の優先順位が把握できるので棚割りに活用しやすくなります。また、ディシジョン・ツリー分析の結果から商品属性別に購買者の性年代、市場規模が把握でき、売場のスペースや配置を決定する際の参考とすることができます。


 
ディシジョン・ツリー分析にはCHAID(Chi-squared Automatic Interaction Detection、カイ二乗による相互作用の自動検出)を利用しています。CHAIDは変数間の関連の強さをカイ二乗統計量によって判断することにより、目的となる変数の違い(この場合はどのアイテムを購買するか)に対して違いに影響を与えている説明変数(ここでは商品属性)を探し出し、順序づけを行うことができます。CHAIDは顧客データを使った顧客分類や、プロモーション・ターゲットの選定などにも使われます。下記の例では、納豆が好きかどうかは地域による差が大きく、納豆が嫌いな人が多い大阪でも年代によって好き嫌いに差があることがわかります。



(3)陳列位置の決定
陳列位置を決定する際には、棚段効果を考慮に入れる必要があります。棚のどの位置に陳列するかは、商品への視認や商品の取りやすさを通して売上に影響を与えます。売れる商品を棚の優位置に陳列することが基本となります。優位置は什器によって異なり、一般食品等が陳列されているゴンドラ什器では胸のあたりが優位置となり、日配食品等が陳列されている冷蔵什器では最下段が優位置になります。棚割り変更による販売予測を、陳列位置変更による棚段効果の違いを考慮しながらシミュレーションできる棚割システムも販売されており、立案の時点でチェックすることが必要となります。




参考文献
田島義博・青木幸弘(1989) 「店頭研究と消費者行動分析」 誠文堂新光社
田島義博(2001), 「インストア・マーチャンダイジングがわかる→できる」, ビジネス社
大澤豊(1992), 「マーケティングと消費者行動」, 有斐閣
豊田秀樹(2006), 「購買心理を読み解く統計学」, 東京図書
SPSS(2001), 「AnswerTree 3.0J User’s Guide」, SPSS


ロイヤルティによるアイテム評価

 

店頭での陳列アイテムをどのようにして決定するかという問題については、店舗を運営している小売チェーンのみならず、店舗運営の支援を行うメーカーや卸売業にとっても重要な問題となります。以前から自社の取扱アイテムに関するABC分析や、同一チェーン内の他店舗や他チェーンとの比較によるクロスABC分析がアイテムを改廃する際の参考とされてきました。しかしABC分析では売れ筋アイテムは残す、売れていないアイテムはカットすることになるため、どのチェーンも同じような品揃えになる傾向があります。弊社ではアイテムに対するロイヤルティを加味したABCL分析(ABC分析+ロイヤルティ)を提供しています。ロイヤルティ指標としては、あるアイテムを初回購入した人のうちどれだけの割合が再購入しているかを示す「リピート率」を用いています。リピート率を加味して商品を評価することで、今は売れていないけれども、売り方を変えることで売上が大きく伸びる可能性がある商品を発見することもできます。

2)C/Pバランス理論によるアイテムの評価
マーケティング・コンセプトハウス会長の梅澤伸嘉氏によれば、『初回購入の特徴はその商品からまだ「満足」を味わっておらず、もっぱら「期待」に対して金を払う、という点である』としています。それに対して『再購入の特徴は、初回購入によってすでに満足を味わっており、「実感した満足」を再び味わうために金を払ったり、繰り返し使う、という点である』としています。マス広告等で商品に対する期待を形成することで、初回購入を増やすことはできます。しかし「実感した満足」がなければ再購入は行いません。商品力を測る上でリピート率は有用な指標となります。
梅澤氏のC/Pバランス理論では、売れる商品は「買う前に欲しいと思わせる力(商品コンセプト)」と「買った後買って良かったと思わせる力(商品パフォーマンス)」が共に強い商品であるとしています。コンセプトのCとパフォーマンスのPのそれぞれの頭文字を取り「C/Pバランス理論」を提唱されています。パフォーマンスを高めた「良い商品」が必ずしも売れるわけではなく、欲しいと思わせる商品コンセプト力も高くなければ売れる商品にはならないとしています。コンセプトとパフォーマンスは商品のトライアル率、リピート率に現れてきます。商品発売時から時系列で追うことで自社の商品のC/Pバランスを把握することができます。「C/Pバランス理論の田んぼ」として4つのパターンを整理しています。
 
 
 
3)ロイヤルティ指標としてのリピート率とABCL分析
ABCL分析とは、通常の「ABC分析」に商品ロイヤルティ(L)として「リピート率」を加えた分析手法です。「買上点数構成比」によるABC判定と「リピート率」をあわせて見ることによって「絶対に欠品させてはいけないアイテム」や「売込めばリピーターがついて伸びてくる商品」を発見することが可能です。スーパーマーケットやドラッグストアで陳列されている商品の多くは、巨額の広告宣伝費を投入することはできません。そのため商品の良さを伝えることができず、買う前に欲しいと思わせることは難しいのが実情です。トライアル購買してもらえず売上が伸びなければ売場からなくなってしまいます。しかしリピート率を見ることで商品の良さを把握することができます。そうした商品の店頭露出を増やしたり、価格プロモーションによりトライアルを促進することで育成することができます。他チェーンでは気づいていない自社の売れ筋とすることも可能です。
中村(2001)では、新製品の採用過程を以下の図のようにまとめています。リピート率によって商品の良さを把握することはできても、まずトライアル購買をしてもらう必要があります。広告宣伝費を投下できない商品では、店頭での露出と情報提供がメーカーにとって重要となります。小売チェーンにとっても、自社の売れ筋をいかに作るかが、今後の店舗運営にとって重要であると言えます。
 
【新製品の採用過程】
 

リピート率が高い場合でも、商品に関する情報が少ないためにトライアル購買されないのか、もしくは多くの消費者とは異なる嗜好を持つ一部の人々に支持されているのかを判断する必要があります。そのためには性別や年代といった消費者属性に片寄りがないか、購買率の低い商品の購買が極端に多くないかという点を確認する必要があります。
現在では大量の情報を得ることができますが、活用できなければ意味がありません。上原征彦(1986)では、店舗での情報をチェーン本部が集約、比較することの重要性を説いています。他社で売れている商品を真似て店頭に並べるのではなく、自社内の情報の活用が今後の課題となると考えられます。
 
4)ABCL分析の例
弊社のホームページで毎月、CAFEデータをもとにしたABCLランキングを公開しています。ご興味のある方はホームページを御覧ください。

カスタマー・コミュニケーションズ株式会社:ABCLランキング
 
参考文献
梅澤伸嘉(1997), 「消費者は二度評価する」, ダイヤモンド社
中村博(2001), 「新製品のマーケティング」, 中央経済社
上原征彦(1986), 「経営戦略とマーケティングの新展開」, 誠文堂新光社
(財)流通経済研究所(2003), 「POS・顧客データの分析と活用」, 同文舘出版


 

ID-POSによるペルソナ構築の意義

1)ショッパーを捉えること

ここ2、3年「ショッパー・マーケティング」や「ショッパー・インサイト」に興味を持つ企業が多くなってきました。消費者調査だけでは顧客を捉えきれないという意識や現実があるように感じます。
モノが売れない時代となり、マーケティングリサーチの目的は多様化する消費者の嗜好をいかに捉えるかになりましたが、リサーチで調べた結果と実際の購買行動に違いがあるということはよく言われます。ドラッグストアやスーパーマーケットでの購買は関与が低く、店頭で意思決定を行うことが多いため「非計画購買」が70~80%と言われます。購買を理解するためには店頭の理解が不可欠となります。小売が発行する会員カードで購買データが安価で大量に取得できるようになったことも影響しています。
また、顧客を理解するためには、「ショッパー」と「コンシューマー」の違いを認識する必要があると考えられます。「ショッパー」とは、店頭で商品を選択し自分でお金を出して購入する人=ニーズを持っていて商品やサービスに対して価値を図る人と言えます。それに対して「コンシューマー」は商品を実際に消費する人=自分のニーズに対して満足を得られるかどうかの価値を図る人と言えます。お菓子を自分で食べるために買うならばショッパーとコンシューマーは同一ですが、子供のおやつを買う場合はショッパーとコンシューマーは異なります。子供が食べておいしいと思うかだけではなく、子供の健康のためにはどういうお菓子がいいかということも判断の材料となります。
このような問題意識から、店頭での意思決定の結果である購買実態=ID-POSでペルソナを構築することに意義があると考えました。

(2)ショッパーを理解するには

ショッパーを理解する上で、異なる購買時点で様々な顔を持つことを認識する必要があります。小嶋(1986)では「心理的財布」という概念を導入し、「消費者が異なる複数の財布をあたかも所有しているように行動し、購入商品やサービスの種類や、それらを買うときの状況に応じて別々の心理的な財布から払う」としています。それぞれの心理的財布は異なる価値尺度を持っています。同じ3000円でも、ドラッグストアで化粧品に買う時には高いと感じない人も、スーパーで買う食品への3000円は高いと感じることがあります。購買時点での心理状態を考慮する必要があります。
それぞれの業態を利用している顧客の年齢層も異なっています。ドラッグストアの客層で最も多いのは30代となっていますが、スーパーマーケットでは50~60代となっています。年代が異なれば収入の水準や家族形態も異なり、意思決定の基準に影響していると考えられます。
業態や立地の使い分けもあります。平日働いている女性会社員ならば、昼休みには会社近くのドラッグストアで菓子や飲料を買って帰宅時には会社近くや自宅近くの駅前のドラッグストアで化粧品やサプリメントを、週末は郊外の大型店で大きめな日用雑貨を買うというように店舗を使い分けています。食品についても、昼間は会社近くのコンビニエンスストアでお弁当を買い、帰宅時には近所のスーパーで食品や日雑を買うというような行動をしています。その時々に応じた購買行動を行っています。
ショッパーを理解する上で業態による商品の選択基準の違いがあると考え、ドラッグストアとスーパーマーケットそれぞれでペルソナの構築を行いました。ショッパーとして一括りにせず、業態別のショッパーを知る事により、従来よりもきめ細やかにアプローチすることが可能であると考えられます。

(3)ペルソナ構築の手順

ペルソナ構築するために、まず個人別の購買データをもとにクラスター分類を行いました。その際に用いた手法は前回のコラムでご紹介した「自己組織化マップ」になります。自己組織化マップを用いる利点は、

① 処理が高速である
② 2次元のマップに付置するので視覚的にわかりやすい
③ 固有値にもとづかないのでカテゴリー購買金額のように強い相関を持つデータでも分離能力が高い
④ 尺度の異なる多次元のデータを同一に扱うことができる

ということがあげられます。個人を多面的に評価するためには、来店状況や商品毎の購買動向など異なった形式の複数のデータを扱う必要があります。自己組織化マップは連続データや離散データ、カテゴリカルデータを同一に扱うことができます。
クラスター分類を行う際には常に、分類するクラスターの数が問題となります。自己組織化マップは2次元に格子状(または蜂の巣状)に付置するため、各軸の数を決めなければなりません。例えばX軸での数を4、Y軸での数を5と設定するとクラスター数は20となります。各軸での数を増やせばいくらでも細かく分類できますが、顧客のペルソナを構築するという目的があるため、解釈のしやすさを考慮しドラッグストアで10クラスター、スーパーマーケットで8クラスターとしました。
ペルソナは「典型的な特徴を併せ持つ、代表的・象徴的な顧客モデルを作りあげる」と定義されます。もともとは、製品デザインやソフトウエア開発の現場で、どんな顧客がどのように利用するのか想像力を喚起するために架空の顧客像を指していたようです。従来のプロセスでは、定量的情報から顧客をセグメントし、セグメントされた顧客に対して定性調査を行い、複数の定性調査結果から共通の行動をグループ分けし、行動パターンを確定した後に、架空の顧客像をストーリー化します。ID-POSによるペルソナ構築では、顧客のセグメントを自己組織化マップを用いた定量的なアプローチで行い、顧客像・生活像・買い物意識像のストーリー化を定性的なアプローチで行いました。
実際にデータを読み込むプロセスでは、来店パターン、購買パターンの各変数を自己組織化マップを活用し、人物クラスターを行い更に類似性からクラスターの絞り込みを行いました。その後、人物描写や詳細説明に用いる会員属性や購買カテゴリーパターンを集計し、ペルソナ記述をワークショップ形式で行いました。弊社が昨年行ったフォーラムでは、ドラッグストアの買い物特徴から想定される「家族を大切にしている専業主婦」と「家庭と仕事両立主婦」の家庭状況・生活パターン・価格感度の違い、あまり語られることの少ないスーパーマーケットでの男性客の顧客像についてご紹介させていただきました。

家庭大事賢い主婦:福永里香さん             家庭と仕事両立主婦:中村恵子さん
家庭大事賢い主婦:福永里香さん       家庭と仕事両立主婦:中村恵子さん
※実在の人物ではありません

構築したペルソナをどのようにしてマーケティング活動に役立てるかが問題となります。数年前にペルソナを作ったが活用できていないというお話をメーカーの方からよく聞きました。意識や価値感の違いを把握することはできても、実際の商品や購買行動に落としこむことができないことが問題であると考えられます。ID-POSならば実際に買っている商品がわかるので、顧客の理解と商品提案の方向性を同時に行うことができます。弊社のフォーラムでは「男性用シャンプー」の拡販について、コミュニケーション戦略と売場展開についてプランをご紹介させていただきました。コンシューマーである夫ではなく、ショッパーである妻をターゲットとした施策立案を行っています。活用という面でもID-POSによるペルソナ構築は意義があると考えられます。

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具体的活用イメージ1             具体的活用イメージ2
新しいターゲット:福永里香さん        福永里香さんへのコミュニケーション

(4)ペルソナを構築するメリット

ID-POSによってペルソナを構築するメリットとして、それぞれの顧客のデータに帰れるという点があります。ペルソナを読み込んでいる時に知りたいことがあれば、顧客のデータを見ることで解決できることが多くあります。ペルソナから立てた仮説を検証する上でも、顧客のデータを活用することが有効となります。
またもう一つのメリットとして、

① 自分達にとって最も大事な顧客を知る
② 顧客のインサイトが把握できる
③ 社内でのベクトルが統一できる

があげられます。顧客を知るということはもちろん大事ですが、ペルソナを構築する段階を社内で共有することで顧客に関する考え方や意識を統一できるというメリットがあります。外部からの分析結果を受け取るのではなく、ペルソナ構築のための共同作業によるプロセスの共有と意識の統一が大切であると言えます。

参考文献
小島外弘(1986), 「価格の心理―消費者は何を購入決定の“モノサシ”にするのか」, ダイヤモンド社
杉本徹雄(1997), 「消費者理解のための心理学」, 福村出版
ジョン・S・プルーイット, タマラ・アドリン(2007), 「ペルソナ戦略―マーケティング、製品開発、デザインを顧客志向にする」, ダイヤモンド社
棚橋弘季(2008), 「ペルソナ作って、それからどうするの? ユーザー中心デザインで作るWebサイト」, ソフトバンククリエイティブ
ジェラルド・ザルトマン(2005), 「心脳マーケティング 顧客の無意識を解き明かす」, ダイヤモンド社
桶谷功(2005), 「インサイト」, ダイヤモンド社
小阪裕司(2009), 「『買いたい!』のスイッチを押す方法 消費者の心と行動を読み解く」, 角川書店

ID-POSによるペルソナ構築でできること

(1)ニーズの多様化とセグメンテーション

大量生産・大量消費の時代が終焉し、企業は多様化する消費者のニーズに対応する必要に迫られました。消費者のニーズを把握するために、顧客を同質(homogeneous)なクラスターに分類し、クラスターごとに製品に対する嗜好や購買動向を調査・分析する方法が導入されました。

購買データの利用が難しかった時代には、アンケート調査によるライフスタイル・セグメンテーションが多く用いられました。消費者の態度、意識、価値観、行動パターンなどをアンケート調査によりデータ収集し、因子分析により抽出された軸から消費者の嗜好や製品に対する評価を把握し、調査対象者個々の因子得点によりクラスター分析を行って来ました。こうした方法は消費者を理解する上で有効でしたが、施策の立案や直接のアプローチには不十分という問題がありました。

(2)セグメンテーションの評価基準

Wedel and Kamakura(2000)ではマーケティングにおける過去の研究を踏まえ、セグメンテーションの評価基準として以下の6つをあげています。

① 識別可能性(identifiability):顧客グループ間の違いを識別できるか。
② 実質性(substantiality):ターゲットとなるセグメントが利益を得られるだけの規模を持っているか。
③ 接近可能性(accessibility):プロモーションや流通段階における施策により、ターゲットとするセグメントに到達できるか。
④ 安定性(stability):セグメントを識別し、セグメントに対する施策の実行や結果を得られるまで、ターゲットとするセグメントの構成や行動が変化しないか。
⑤ 反応性(responsiveness):同一のセグメントに属する顧客は、マーケティング施策に対して同様の反応を示すか。
⑥ 実行可能性(actionability):マーケティング施策を効果的に選ぶ際に、セグメントが意思決定の指針となっているか。

ライフスタイル・セグメンテーションをこの評価基準で評価した場合、接近可能性が問題となります。このような特性を持つ顧客にアプローチすべきという結果を得たとしても、アンケートの対象となった人以外に直接アプローチすることはできません。ID-POSならば、クラスター分類を行った購買者に対する接近と分析結果の検証を行うことができます。

(3)データの特性

 アンケート調査では、質問項目の内容が調査の核となり、消費者や購買者の嗜好や行動をどれだけ質問項目で補足できているかが問題となります。調査会社が提示する質問項目を深く検討することなしに受け入れ、型通りの調査でペルソナを作るケースが見受けられます。しかしこれでは発注者側は出てきた結果の検証ができないため、施策立案への利用に二の足を踏まれると思います。

ID-POSでは個々の消費者の購買行動が100%補足されていないことがしばしば問題となりますが、データ分析においては必ずしも本質的な問題とはなりません。A店ではシャンプーしか買わない、B店では洗剤しか買わないというような店舗利用の極端な偏りがなければ、購買者の購買傾向を把握することはできます。むしろID-POSでは多カテゴリーにわたるアイテムレベルでの購買実態や、店舗立地や来店時間など、ペルソナ構築に役立つ多くの情報を得ることができます。

また、データの分布の問題もあります。因子分析を行う際には変数が正規分布であることを仮定しています。アンケート調査の場合、5点法や7点法ならば連続変数として扱って良いということが言われていますが、分布が正規分布から外れる場合には推定結果に偏りが生じます。また分布の形状も問題となります。アンケート調査の結果が、正規分布のように中央が最も高くなってなだらかな釣鐘型になっているとは限りません。世の中には正規分布するものが多いと言われますが、必ずしもそうではありません。例えば人の身長は正規分布にな りますが、身長の約2.7乗が体重となり(体積なので3乗ですが若干低いそうです)、体重は対数正規分布になります。

データ分析を行う際には、データの分布についても注意する必要があります。データの特性に応じてクラスター分析の手法も選ぶ必要があります。



(4)購買データとクラスター分析手法

アンケートデータと購買データでは、それぞれ適したクラスター分析の手法を使う必要があります。アンケートデータは因子分析により軸の抽出がしやすいように設計されています。それぞれの質問項目はある因子に対しては因子負荷量が高くなり、他の因子に対しては因子負荷量が低くなるようにされていることがほとんどです。しかし購買データは意図的に設計されていません。食品スーパーやドラッグでは購買金額上位のお客様はどのカテゴリーの商品も比較的よく買うため、カテゴリー間の相関は強くなっています。商品カテゴリーごとの購買状況によりセグメントを作ろうとした場合、k-means法等でクラスター分析を行っても1つのクラスターに集中してしまいます。そのためID-POSを使ったペルソナの構築では、「自己組織化マップ」という手法を用いました。

自己組織化マップは入力層と出力層からなる2層のニューラルネットワークであり、多次元データを2次元に圧縮してマッピングすることで可視化します。入力層にはそれぞれの個体の特徴となるベクトル(X1~Xn)を与え、出力層にはノードが格子状に配置されます。各ノードに対してX1~Xnのデータに重みm1~mnを与えてベクトルを作ります。ノードのうち最も距離の近いものを勝者とし、勝者とその近傍で再度重み付けを行い近いデータを集めていきます。そして勝者となったノードとその近傍で重み付けを変えていきます。そして再度各ノードとデータの距離が計算され、最も近い勝者ノードが決定されます近傍の範囲は次第に狭められ(それぞれのデータが影響する範囲が狭くなっていく)、重み付けが安定するまで続けられます。


自己組織化マップの概念はわかりにくいてですが、イメージをつかむためには
下記のサイトが参考になります。

子供でもわかる「自己組織化マップ」
http://gaya.jp/spiking_neuron/som.htm

クラスター分析は探索的な手法であり、どれが正解ということではありません。購買者を分類する手法にはいくつもあり、デシル分析や性年代による分類でもある程度の効果を得ることはできます。分類した結果がマネジメント的に有効であるかが問題となります。その意味ではID-POSによる顧客クラスターとペルソナの構築は、施策立案の有効な手段となると考えられます。


次回はID-POSにより構築したペルソナの例をご紹介致します。


参考文献
Blattberg, Kim and Neslin(2008), 「Database Marketing」, Springer
Wedel and Kamakura(2000), 「Market Segmentation」, Kluwer Academic Publisher
江原淳、佐藤栄作, 「データマイニング手法」, 海文堂
金明哲(2007), 「Rによるデータサイエンス」, 森北出版
中村博(2008), 「マーケット・セグメンテーション」, 白桃書房
繁桝算男, 森敏昭, 柳井 晴夫(2008), 「Q&Aで知る統計データ解析」, サイエンス社
竹内啓(2010), 「偶然とは何か」, 岩波書店
徳高平蔵, 藤村喜久郎, 山川烈(2002), 「自己組織化マップ応用事例集」, 海文堂
豊田秀樹(2008), 「データマイニング入門」, 東京図書


 


 

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